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鳥取地方裁判所 昭和44年(む)96号 決定 1969年11月06日

被疑者 寺垣利雄

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者に対する窃盗、詐欺被疑事件につき昭和四四年一〇月三一日鳥取地方裁判所裁判官宮本定雄がした勾留場所を鳥取刑務所とする勾留の裁判に対し検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、別紙準抗告申立書(略)記載のとおりであるから、これを引用する。

二、本件準抗告申立(以下本件申立という)の適法性について案ずるに、被疑者の勾留は、被疑者の逃亡及び証拠湮滅の防止を目的として被疑者の身体を拘束し監獄に拘禁する裁判官の裁判(命令的処分)であつて、捜査機関が、被疑者の身柄を拘束し取調べることだけを目的とするものではないこと、刑事訴訟法六四条一項は被疑者の利益のため勾留場所を勾留状の記載要件としているのに対し、刑事訴訟規則一四七条では、それが検察官の勾留請求書の記載要件となつていないこと、現行法上勾留の執行後の勾留場所の変更については、裁判官が請求または職権でその旨の裁判ができる規定がないこと、かえつて刑事訴訟法二〇七条、七〇条、四七二条一項、刑事訴訟規則三〇二条、八〇条によると検察官に勾留状の執行を担当させるとともに、勾留場所での勾留の執行または捜査が、勾留状執行後において不可能または著しく困難な事情にあるときは裁判官の同意を得た移監によつてその目的を達成すべく予定していることを考慮すると、検察官の勾留請求に対し裁判官がその請求を容れ、勾留の裁判をした場合に、右裁判で指定した勾留すべき場所における勾留が、前記勾留の本来の目的にそわず、実質的に右勾留請求を却下したに等しいというような特別の場合を除き、検察官(被疑者または被告人側は格別として)は、原則として右勾留の裁判で指定された勾留場所を不服として右勾留の裁判に対し準抗告の申立をすることができないと解すべきである。

そうすると、検察官が本件申立の理由とするところは、前記勾留の裁判で指定された勾留場所たる鳥取刑務所には、透視鏡がなく、また午後五時以降の捜査には事前連絡を要する等捜査上必要に応じ時機に応じた処置が取り得ないこと等専ら捜査上の便宜をいうものであるから、本件準抗告の申立は不適法といわざるを得ない。

三、仮りに、本件申立が適法であるとしても、刑事訴訟法六四条一項が勾留場所を「監獄」とし、監獄法一条一項四号が勾留中の被告人被疑者を拘禁すべき場所として、監獄のうち拘置監をあてる旨規定していること及び警察官署の留置場は、本来、刑事訴訟法による被疑者の逮捕留置の場所であることからすると、被疑者を勾留すべき場所は、原則として拘置監であると解すべきである。従つて、監獄法一条三項により、被疑者を警察官署の留置場に勾留することができるのは、刑務所の管理能力及び収容力がない場合は別として、被疑者の人権保障に支障がなく、かつ、拘置監において捜査することが不可能または著しく困難である等特段の事情のある場合に限り、例外的に、一時的な拘束のための施設として使用するときにのみ許されるものというべきである。

そこで本件記録に基づき勾留場所を代用監獄たる鳥取警察署とすべき特段の事情の有無について検討するに、一件記録によれば被疑者は本件窃盗、詐欺の事実を否認し弁解をしていることが認められ、その弁解は捜査の進行に伴つて種々に変化することも予想されるので、捜査官が逐一弁解の裏付けをとるため時宜に即した処置をとる必要があり、従つて鳥取刑務所内での右の取調べには多少不便が生じることが認められるけれども、右の事実が同所内での捜査を不可能または著しく困難ならしめる事情に該当するとは到底いえず、その他検察官の主張する理由は、一般的に鳥取警察署が、捜査のため便宜であることを主張するにとどまり、本件被疑事実について引き廻し捜査や実況見分を必要とする等特段の事情についての主張はなく、また記録を精査するも、右の事情を認めるに足る資料はない。

四、そうすると、本件申立は、不適法でもあるし理由もないので、いずれにしても棄却すべきである。よつて刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

別紙(略)

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